鴛渕貴子氏プロフィール
1976年生まれ。千葉県出身。武蔵野美術大学卒業。幼少の頃はロンドンとニューヨークで過ごす。20代はマーケティング会社で日系メーカーのアジア進出にむけたブランド開発に携わる。30歳を期に独立。東京でマーケティング会社を立ち上げ2012年春にリサーチで訪れたインドの市場性に可能性を感じ、半年で現地法人を設立。 現在はバンガロール在住4年目。今年より日本食をブランド展開するためのFoodtech新事業「InBento」をスタート。
好きな言葉は、Be the change that you wish to see in the world。
InBento:https://www.facebook.com/InBentoIndia/
−海外に目を向けられたきっかけはありますか?
子供の頃はイギリスとニューヨークで過ごしました。バブルで沸き上がる80年代後半、子供ながらに冷静に日本を見てたように思います。物心ついた頃に海外生活をしていたので、海外に対する憧れはなかったですね。むしろ将来海外にくる事があれば「仕事」でという強い思いがありました。因みに自分の中では、語学留学は絶対にしないと決めてました。まずはキャリアを日本で固めてから、ビジネスを目的に海外に行こうと考えていたように思います。
—なぜインドに来られたのでしょうか?
大学を卒業してから、15年間マーケティング一筋で仕事をしてきました。20代後半は中国にどっぷりで「中国市場に日系のナショナルブランドを根付かせていく」実績をつくりました。その後、同じ実績を自分の会社でチャレンジしたかった。でも世界はどんどん変化していて、当時は中国ではないと判断しました。
日本のモノやサービスが、どこまで世界ブランドとして展開できるのか。まっさらな市場に、真っ白いキャンバスに筆を入れるように画を描ける市場を探していました。日本の市場は成熟していて、キャンバスは既に誰かに塗られていて、もはや機能やサービスのキリバリしかない。価格競争でしかない。ゼロイチの市場はありません。
「本物のキャンバス」に絵を描いていた10代から「市場のキャンバス」に絵を描きたいと。 当時、外資の外食ブランドが軒並みオープンし、連日のようにニュースになりました。一過性のトレンドに群がる消費者。「文化」として根付かない。まるで日本は外資ブランドに遊ばれてるように感じました。じゃあ、日本ブランドで海外で「文化」をつくったブランドはあるのか?コンテンツは揃ってるのになぜ海外で根付かないのだろう。そこでマーケッターとして「広める」事をしたいと考え始めたんです。市場はデカイ方が良かった。思いっきり筆を投げれるでしょう。
コンテンツは日本食を象徴する味噌汁にしました。「スタバの朝の一杯をMiso Soupにするスタイルを海外で根付かせたい」当時東京を席巻していたスターバックスに対抗して、ブランド展開できる場所を探していました。そんな時に、バンガロール大学で味噌汁のプロモーションをやっている、という記事を発見しました。日系企業がしかけたのか?驚いたのは、現地の食品メーカー主催だったのです。
インドで何が起こっているの?これは行かなくては!と思いったってすぐにインドへ。 デリー、ムンバイ、バンガロール、プネー、100人のインド人相手に味噌汁試食会と路上ゲリラサンプリングをしました。 実施して得た事は、日本の味噌汁をそのままではなく、インド味噌汁を開発しなくてはいけない。長い歴史の中で、インド人には「インド人の舌」が出来上がってます。しかし、インドに来たからにはインド人に対してどのように広めるかが重要です。 美味しいと感じなくても「美味しい」と言ってくれるインド人の腹の底を探るために、さまざまな味覚のアプローチをしました。 因みに、当時は路上やショッピングモールの敷地内で、勝手に試食プロモーションをやりました。まあ今は無理でしょうね笑。
—どんなこだわりを持たれていますか?
インドでビジネスをするなら、インド市場にダイレクトに切り込む事。欧米やアジア圏のブランドは皆そうやって試行錯誤しています。どんなに素晴らしい商品であっても、必ず「トライ&エラー」に時間とお金がかかります。如何に一日でも長く一人でも多くマーケティングに時間をかけて失敗と成功を繰り返してきたか、これが後に他に追随をゆるさない、市場で成功するための筋肉になります。だから早く進出する事が最先決でした。ローカル企業、欧米やアジア企業と同じスタートラインに走者として並ぶために待った無しだったのです。
長年マーケティングの仕事をして来て、その勘には一番自信がありました。そして決してあきらめないこと。 正しい方法論はありません。なぜならば、ものすごいスピードで消費者の嗜好や生活様式が、特にここバンガロールは、テクノロジーによって進化しているからです。スピードと共にフレキシブルに戦術を変えて常に走り続けなければいけません。だからローカル的に住むことが大変重要なのです。
—インドの魅力とは?
私はいわゆるインド好きな日本人ではありません。市場性に舌なめずりをしたタイプです(笑)。日々状況が変わるインドで、成長期をライブで体感できて実践できる、そして12億の市場。こんな場所は世界地図上に他にありません。もう一つは、私は準備する事が苦手なタイプなのですが、インド人の走りながら整えていくスタイルが性格にあっているとこですね。まずは仕事をとってそこからスタートさせる。このスタイルが日本との最大の違いですね。
ーもし今大学生なら何をしていますか?
今はインターンシップなど様々な手段がありますが、現地の視点で言うと、もうジャブ打ってる時間はないですよ。インターンで教わって社会に飛び込む、なんて誰かが決めたプロセスです。決められたプロセスよりも、いま、市場が何を求めているのか、それが大切なんです。市場はあなたのペースに合わせてくれませんからね。飛び込んで失敗すればいいです。前向きなインド人はすべてを受入れてくれます。
私は毎日のように20代から40代の優秀なインド人と仕事をしています。昨日は20歳のセールスマンと商談でした。優秀で鼻血が出ます。会社に勤めながらもビジネスをスタートしている人も多いですし、起業も日常です。とにかく活気があってやることが早いですね。40の私が彼らから刺激とエネルギーをもらっています。人口の半分が25歳以下の国。すごい国ですよ本当に。
私がおすすめするのは実際その土地に住んでみることです。あ、旅行はだめですよ(笑)くまでも「生活する」事に価値があります。日本から見る事ができるネット情報は殆ど個人のフィルターが通っていて真実が歪曲されています。インドのような成長期にある国は、毎日状況が変化しますから如何にフレッシュな情報を元に戦略を立てていくか、生命線なんです。
ネットの情報と、新聞と、街のチャイ屋で聞く情報がマッチして初めて私は情報を信用します。殆どの人は何れかに偏ってます。だから住む事がとても大事なんです。
それから、インド人は会話をする事で物事の方向性を決めていくメンタリティを持っています。 日本人はプランを立ててから合理的に進めようとしますが、インドでは紙切れになります。会話には温度感が必要ですし、インド人の目力は強いので笑、やっぱりFace to Faceが物事を加速しますね。私も日本に居る時はSNSやメールで仕事を完結させる事もありました。 日本人の中ではそれで良いと思うかもしれません。でもインドでは電話嫌いや会う時間にプライオリティーを置かないスタンスは機会損失になります。
—悩んでいる若者にアドバイスを下さい。
ローカルの友達をつくる!これにつきます。 世界の同じ年代の子達が今、どんな動きをしてるのか、どんな事を考えているのか。 そこにその国の未来が透けてみえます。また、夢は走らないと見えてきません。 学生時代は皆が実績も何もない空っぽな状態です。何もない箱には何かを入れないと簡単につぶれます。
何を入れればいいのか?答えはインドにあるんじゃないでしょうか。日本はコンテンツが溢れています。インドはいわゆる「空っぽな箱」状態です。 少なくとも皆さんは、20年は日本で生活してきて、コンテンツの溢れた生活をしてきた筈です。 インドの箱に、誰にどんなコンテンツがハマるのか、探しにきてみたらいいと思いますよ。
これがマーケティングの本質です。
私は4年前に来た時「ヤバいなここ何もなくてチャンスしかない」と興奮した事を今でも覚えています。マーケティング思考のない日本人は「無い」事に嘆きますが あなた達はこれから「コンテンツデパート日本」を世界展開していくトップセールスマンになれるんです。
モノもサービスも先人が十分作り込みました。あとは売るだけです。 ものづくり至上思考の日本人は「売る」=「商売」が本当に苦手です。 今、日本のモノがどんどん中国人や韓国人によってマーケティングされ、新興国で商売をしています。日本人がつくったものをなぜ日本人がPRできないのか。 悔しくありませんか?
私がいつも言っていることがあります。「Made in Japan」を戦略の軸にするなと。商売は市場ニーズに優先順位を置くべきです。日本のプライドは捨てるべきなのです。若い柔軟なあたまで実践して欲しいと思います。
今、私は日本食のビジネスも進めていますが、近い将来日本の食の有識者達と戦う構えです。(笑)私のブランドはあるべき日本食ではないからです。広めるべき日本食だからなのです。 わたしも頑張るのでみなさんも頑張ってください。
取材担当コメント
インド人に対して日本のものをそのまま提供するだけではダメなこと、鋭い視点からたくさんのことを語って頂けました。こうやって新しいインド×日本食が生まれ、新しい文化が生まれていくんだと思いました。鴛渕さんはものすごく若く、エネルギッシュな方でした。こんな芯のある女性のなりたいと強く感じました。
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